「どう? おいしいでしょ」。
豚頭の各部位がたずねてくる。
脂はするりと甘く溶け、頬肉は歯を抱き込みながらほぐれ、タンは柔らかな滋をにじませながら崩れていく。
首皮肉だろうか。今、くにゅりと歯の間で悶えてから、喉元へと落ちていった。
そして耳は、コリリと痛快な歯ごたえを見せた後に、わずかなについたコラーゲンが、甘く香る。
こんなおいしい耳は食べたことがない。
すべてが、新鮮であるがゆえである。
すべてが、どう切れば最も生きるか、どの程度加熱すれば味が生きるかを熟知した、高良シェフの感性と技がなしたものである。
そしてそれぞれの部位が、個性を発揮し、魅力を競い合うが、同じ豚ゆえに味が丸くまとまっている。
一旦解体された豚頭が、再び集結し一体となり、大笑いしている。
その全体に漂う穏やかな甘みを、作りたてのラビゴットソースの酸味と香りが盛り立てる。
「テット・ド・フロマージュ」における「フロマージュ」の語源は、ローマ時代にさかのぼり「型に入った」→「形作る」→「まとめる」という意味だという。
そうか。
「テット・ド・フロマージュ」の真髄は、形がまとまっていることだけではなく、味をまとめるという意味もあることを、この日初めて知った。
「どう? おいしいでしょ」
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