黄金の毛が手招きする。
2枚目の写真を見て欲しい。
脚に密生した輝く毛は、澄み切った健やかな環境で育った証なのだろう。
この毛を持つ蟹に出会えるのは、「蟹王府」だけである。
上海蟹の盛りを迎えた今、毎週二回、黄金毛を持つ蟹が直送されてくる。
さあすぐさま蒸しあげよう。
9月は、成熟していない、青い、モラトリアム手前の初々しい味が、胸をくすぐった。
10月はミソが肥えて、色気を漂わす少女であり、性のうずきを見せる青年となって、誘惑された。
そして11月。
雄は白子を持つ。
脂がみっちりとつく。
雌は卵がやや硬くなるが、濃密となる。
「うう」。
一口食べて唸った。
味噌と白子が口の中の粘膜という粘膜を舐めつくし、官能が犯す。
生命力のたくましさが、甘く、濃いしぶきとなって、胸を焦がす。
だが一方で、どこまでも清純なのである。
なかば暴力的な性の雄叫びをあげながら、清らかなのである。
これもまた生活環境がなせるあじわいなのだろう。
たまらない。
熟女の色気で誘惑されながら、少女のような屈託なき笑顔を見せる。
爽やかな青年の奥に潜む、怪しき色気。
僕らは、アンビバレントな魅力の沼に、ゆっくりと沈んでいく。
もう抜け出せない。
蟹王府で時期の上湯蟹を食べたら、甘美な囚われの身となる。