「野菜料理が一番難しい。高級食材は、少し手を入れれば形になるけど、野菜は同じ季節の同じ野菜でも、ひとつひとつ個性があるので、難しい。日本料理の料理人は、それを習得するのを目指さなくてはいけない。そう親父さんは、事あるごとに言われていました」。
「味亨」のご主人井上さんは、「京味」故西健一郎さんの言葉を、噛みしめるように話された。
「私もなんとか焚き物だけは一人前になりたいと、7年間親父の横で焚き物を教わりました」。
その蕪は、ようやく形を保っていた。
箸を入れ、口に運んだ瞬間に、ムースのように崩れていく。
甘く、香り高く、蕪にまだ命があって、歯を招き入れ、包み込んでいるかのような躍動がある。
それでいてどこまでも静かに、楚々とした品がある。
食べていくと、淡い淡い味付けの中から、食欲を掻き立てる香しさが、ほんのり香った。
聞けば、タイの中骨を出汁に入れて、炊いたのだという。
蟹や鯛、甘鯛やブリは、この野菜の美味しさを引き立てるためにあったのではないか。
そう思わせるほどの格があった。
途中で出された根芋の焚き物もまた、うますぎず、歯ざわりをいかした焚き加減が、しみじみとおいしい。
野菜料理を大切にする若い料理人が出てきたことが、なんとも嬉しい。
「味亨」の全料理は、