今回は「いいね」は少ないだろう。
なにしろ地味である。
色合いも乏しい。
また、食べた人はごく僅かしかいないだろうから、イメージがわかない。
西麻布「オステリアトット」で「バジリカータ州の料理会」を行った。
料理の名前は、「Lagane e Ceci ラガーネ・エ・チェーチ」という。
「ひよこ豆のパスタ」である。
古典的パスタのガーネと、クタクタに煮たひよこ豆を合わせただけの料理である。
シンプル極まりない。
素朴、極まりない。
「クチーナ・ポーヴェラ (貧しい人々の料理)」と呼ばれる、バジリカータ州を代表するパスタ料理である。
一口食べてため息がでた。
同席した20人から、同時に息が漏れた。
「ああ、おいしい」。
誰からともなく呟いた言葉が伝染していく。
すいとんのようなネチっとした食感のパスタと豆の甘みが、幸せの永遠を作る。
「豆料理は、煮始める前の塩の量で決まるんです。後から調整はできない。だから経験値が必要なんです」。
根本シェフは言う。
豆と小麦粉しか存在しないのに、なんと雄大で、寛容的で、慈愛に満ちているのか。
一口、また一口と運ぶたびに、心が豆の布団に包まれて、安らかになっていく。
貧しい人々の料理、つまり少ない食材で知恵を巡らした料理である。
山岳地帯がおおく、イタリアで最も人口密度が低く、耕す土地が少ない、厳しい環境で暮らしてきた人々の知恵が息づいていた。
ちなみに「ラガーネ(Lagane)」の語源は、古代ギリシャ語で「帯状のもの」「紐状のもの」を意味する「ラガノン」に由来する。
古代ローマ時代に伝わって「ラガヌム(Laganum)」という言葉になり、今日の「ラザニア」の語源にもなったと言われている。
すなわちラガーネの歴史は古く、紀元前から存在していたとされるパスタの原型で、小麦粉と水を練って帯状に薄く伸ばしたものを、細長く切って調理したという。
一万年前に小麦栽培を始めた人類が、9千年前に栽培を始めたひよこ豆と合わせた料理である。
おそらく2千年前に生まれ、脈々と受け継がれてきた料理を食べる。
先人たちの智慧は、かくも暖かく強く、遠く離れた日本人をも虜にするのだった。
