触れてはいけない

食べ歩き ,

触れてはいけない。
食べてはいけない。
そう本能が囁きかけた。
毒なのではない。
ピュアな、あまりにも純粋な味わいが、本能に働きかけたのである。
薄く切られた筍は、その透明なエキスが汗のように断面から滲み出て、輝いている。
一口、一口かじった瞬間に、竹林の精が滴り落ちた。
甘い。
甘いつゆが、舌にぽたりと落ちる。
そこには、朝露のような清澄がある。
成長しようとする生物の、汚れなき勢いに圧倒される。
「今までいろんなやり方で、筍を焼いて来ました。オーブンで焼いたり、炭火で焼いたりと。でもこのように、朝採りの筍を昼の時間に皮ごと炭火の中に突っ込んで焼き、しばらくしたら取り出してしばらく休める方法が一番いいとわかったんです」
富山割烹「ふじ居」の藤井さんはそうおっしゃった。
筍は、まだ掘られたことに気づかず、焼かれたことも知らないのに違いない。
そう思わせる、今まで食べたどの筍料理とも異なる、自然界の琴線に触れてしまった味わいである。

「ふじ居」の春満開の全料理は、別コラムを参照