<駅弁勝負> 第65番  素朴なのか豪華なのかわからない

駅弁 ,

素朴なのか豪華なのか、わからない弁当である。
函館駅、函館みかど謹製「鰊磨き弁当」980円である。
主役の身欠きニシンの煮物は、ポソポソの中に、しみじみと味が染み入っている。
噛み締めれば、厳冬の景色が浮かび、貴重なタンパク質を得てきた先達の知恵が胃の腑に落ちる。一方子は、分厚い。
こんなに大きな数の子を、駅弁に入れていいものかと、思うほど大きい。
ボリッと噛めば、すぐにバラバラになることもない、立派な数の子様である。
ボリッボリッ。ポソポソポソポソ。
雄弁と朴訥、勇壮と実直。
袂を別った親子は、淡々と自らの役目を果たす。
どちらもご飯が欲しくなるというより、燗酒が欲しくなるが、それでいい。
弁当は、こういうおかずでご飯を食べることがなくなった現代人の滑稽を、少し笑う。
弁当は、本来は安かったものが、今では980円出して妥当な値段になってしまった現状を、嘆いている。
一方のつぶ貝弁当は880円。
薄く切りすぎて煮たため、つぶ貝感はなく、どちらかというと下に敷き詰められだきんぴらゴボウが勝って、きんぴら弁当と名乗った方が潔い感じであった。