白トリュフやこんこん、降り積もる。
もっとかけて。いやもうかけないで。
シェフが、白トリュフを薄切りにしながら、リゾットに振りかける。
もっとかけて。いやもうかけないで。
たくさんたくさんかけて欲しいが、たくさんたくさんかかると恐れ多いという相反する心がせめぎ合う。
白トリュフは、心の中にそんなアンビバレントな渦を巻き起こして、もう、食べる前からコーフンさせる。
その隠微な芳香は、鼻腔の細胞に粘って、食欲というより動物としての人間の根源的な欲望を扇動する。
鼻の中にあるヤコブソン器官が胎動し、目を細め、鼻穴を広げ、口を蕾ませ、もしくは半開きにさせて、両眉の間にシワを作る。
つまりは情けない顔になって、体の力が抜けていく。
白トリュフ様、あなたに身をゆだねますと、黙々とスプーンを動かし、香りの中に埋没していく。
その無意識の衝動の中で僕は、白トリュフだけを集めて、小さな塊を作った。
いやらしい香りをまとったご飯を、あらかた食べ終わると、握り寿司ほどの大きさに残ったリゾットをまとめ、上にその白トリュフの塊を乗せた。
口に運んだ。
体中の筋肉が弛緩して、スプーンが手から滑り落ちる。
毛穴という毛穴が開き、細胞という細胞が緩む。
精神が勃起し、脳みそが溶けていく。
その時僕は、この世にはいなかったのかもしれない。
六本木「ブリアンツァ」にて。