「ビール下さい」。
「ビール? どうする? みんな生の方頼むから、ビンはよく冷えてるよ」。
「瓶ビールで」。
「キリン?アサヒ?」
「キリンがいいな」。
「はいよ」。
「ほら。超冷えてるよぉ。チョーつけちゃうくらいにね」。
ゴクゴク。
「どう?」。
「うん。チョー冷えてうまい」。
「でしょ」。
赤坂「珉珉」の楽しみは、
餃子や焼きそばに出会うこと。
名物女将にあうこと。
昔、下町の食堂にいるおばさんがそうだったように
おせっかいやきで、おしゃべりで、気風がいい。
チョー冷えたビールで、いつもの突き出しをつまむ。
そしてやはり焼き餃子。
「最近、うちの餃子のタレはこれ」。 と、作ってくれるのが、酢に黒胡椒をたっぷり振りいれたもの。
餃子に合う。
冷えたビールと食べる焼き餃子に合う。
「よそでまねしちゃいけないよ」。
「胡椒の使いすぎで、いやな顔されっから」。
夏休み前で、
「明日から休みで、そこに張り紙出してんだけど、誰も見ないからね。明日も沢山来ちゃうんだろうね」
心配している。
店内で流れているテレビで、スペインが紹介されているのを見て
「安いねえ。家賃7千円だってよ」。
「そう。あそこでミンミンやるか」と。厨房に立つ息子が言えば
「誰も来やしないよ」。
常連が勘定。
「ハイ。一人1550円」。
「50円負けてよ」。と、せこいこといえば
「なにいってんの。 うちはこの50円が儲けなんだから」。
小気味いい。
名物焼きそば。
「はい。これが昔なつかしのチャーメン」と、隣の若いカップルに出す。
「麺がうまいね」。といえば
「この麺屋。渋谷で80年やってたのに、やめちゃってねえ」。
チャーメン。
太い麺が、唇をつるりんとすり抜けて、むっちりとした噛み応え。
醤油の丸いうまみが脂分のコクとまみあって、
食べれば食べるほど、箸が加速する。
濃さと優しさのせめぎあい。
まるでここのおかんのしゃべりの如し。