〈ラブランシュのスペシャリテVOL1〉
赤い皿の上には、真っ黒になった牡蠣が座っていた。
初めて食べる人は思う。
こんなに黒くなるまで焼いて、苦くないのか?
牡蠣に火が入り過ぎてしまわないのかと。
だが、食べて、驚く。
カリッ
小さな小さな音が立って、牡蠣に歯が入る。
「はぁー」。
その瞬間に、誰しもがおいしさに脱力し、ため息をつき、笑う。
表面の焦げに、苦味は微塵もない。
その黒さは、凝縮したうまみであり、濃厚な香りとなって鼻をくすぐる。
その後、牡蠣のエキスがどっと流れ出て、陶然となった。
牡蠣の身は加熱され、香りと滋味を最大限に高めながら、食感はしなやかなまま、舌ともつれあう。
それゆえに、表面と固さとの対比が生まれ、より牡蠣の肉体が愛おしくなるのであった。
この料理を作るには、三ヶ月前から始まる。
牡蠣が2個入る鉄のフライパン(おそらく16センチ)に食材の端材を入れ、油を馴染ませ、育てていく。
三ヶ月で育ったら、牡蠣に粉を叩いて強火で焼く。
ひとときも目を離さず、目と鼻と耳を傾けて焼き、わずかな頂点を目指す。
その一点に達したら、バターと塩を入れ、シェリーを注いでフランベする。
「この料理は一番火傷するんです」。
シェフはそう言って笑い、火傷された二の腕を見せた。
すべての料理の手を止め、シェフが自らの神経を研ぎ澄まして作るために、一回に作るのは、4個が限界だという。
今日は特別に一つずつ作ってくれた。
76歳のシェフが、全身全霊を傾けて焼いてくれた黒い牡蠣は、豊潤なる恵みを湛えている。
そしてこの上ない贅沢な幸せを、心に宿すのであった。
青山「ラブランシュ」にて。
牡蠣は加熱しても縮まない、岩手廣田湾の牡蠣。奥は、牡蠣のジュをアンフィゼさせた、牡蠣のフラン。油脂分を緩和させる酸味をまとった、赤キャベツのマリネ。

