焼松茸は、手でつかんで、食べなくてはいけない。
焼松茸は、繊維と平行に齧らなくては、いけない。
「柚木元」で焼松茸をいただくのは、5回目になる。
手にとると、採られてまだ2時間ほどしか経ってない松茸は、ずっしりと重い。
自分の体液で、表面がしっとりと濡れていた。
いつものように、「キュッキュッ」、「キコキコ」と、他では聞けない切られる松茸の悲鳴を聞く。
半分に切られた松茸は、炭火の上に断面から置かれ、返され、濡れた和紙の布団をかけられる。
ご主人は目を凝らし、指先で触りながら、焼き具合を測っていく。
やがて真ん中に切れ目を縦に入れ、皿に乗せられた。
「松茸は縦に走る繊維に沿って歯を入れてください」。
これは箸ではない。手でつかもう。
言われたままに、切れ目に沿って歯を入れる。
「ボキッ」。
痛快な音が立った瞬間、松茸のエキスが溢れ出した。
指を伝い、皿ににポタポタと落ちる。
これはいけないと思い、少し顎をあげ、口の中にこぼれたエキスを落ちるように食べた。
「松茸って甘いんですね」。
同席者が驚いたように言う。
そう。甘い。
ただ世の甘いという感覚とは違うかもしれない。
甘さが霞に包まれていて、純粋無比な樹液を絞ったような、一滴の芯に澄明さがある。
奥深く静かながら、俊烈さもたたえている。
心の汚れが、一瞬にして霧散していく切れ味がある。
これこそが松茸の神秘なのだろう。
半ば茫然自失となりながら、中空を見つめる。
甘美な余韻は、いつまでも、いつまでも口腔に留まって、陽だまりを作っていた。
飯田「柚木元」にて







