陽が落ち始めた路地に、ぽつねんと提灯を灯している店に入った。
「いらっしゃい」。
威勢のいい声に出迎えられて店に入ると、カウンターが奥に伸び、親方と女将さんが二人で板場に立たれている。
歳の頃は60くらいだろうか。
恰幅のいい親方から、おいしい気配が伝わる。
一番奥の壁には、品書きがかけられていた。
50種類くらいだろうか。
魚名と料理名が、壁一面に張り出されている。
ああ、ほしがれいにイワシ、ごま鯖酢〆、青柳もいいな。
子持ち昆布にイカゲソ焼き、イワシ南蛮漬けも食べたい。
食欲が競り上がってくる。
コースやおまかせは、ない。
好きいなものを好きなだけ頼めるのである。
「ほしがれいにコハダ,白いかゲソとシャコをつまみでください。お酒は菊正宗を燗でお願いします」。
菊正宗は一合700円、二合頼むと1200円と、安くなるのが嬉しいじゃないか。
お造りが運ばれた。
小肌の手前のガリには胡麻が散らされているのが憎いね、こんちくしょう。
お造りで一合をやり、おかわりする。
次に頼んだ「マダコ煮」は、柔らかくしっとりと仕上げられて、酒が進んでいけねえや。
「インゲン胡麻和え」と「イワシ焼き」で、もう一合を迎えて、さあそろそろ握りをもらおうかい。
「赤身と白いかをください」。
マグロの鉄分とイカの甘みを味わった後、身が締まって締まって脂の品がよい、萩のアジを楽しんだ。
酢締めしたゴマ鯖をいただいた後に、隣の客が食べていた赤貝がうまそうだったので、お願いする。
ご主人が赤貝をケースから出そうとして一瞥し、言う。
「すいません。赤貝だれてきたので,勘弁していただけますか?」。
誠実に嬉しくなり、代わりに青柳をお願いする。
青柳は最近の寿司屋では見かけない。
小柱は置いてあるのに、生粋の江戸前のネタである青柳がないのは、なぜだろう。
車海老と穴子を握っていただき、「小肌をガリで巻いてください」と、締めた。
いずれも質がいい。
「こちら品書きは、ご主人が書いてらっしゃるんですか?」そう聞くと、
「メニューはかみさんが書いているんです。私は、恥をかくのは気にならないんですが,字は書くのは苦手でね」。
ご主人はそう言って、微笑んだ。















