毎日食べ歩いていると、不思議な光景に出くわすことがある。
先日も夜に都内の某寿司屋へ一人で出かけると、隣に若い女性が座っていた。
お年頃は、おじさんの勝手な推測によると、28から35といったところだろうか。
お一人で座っておられて、隣が空いていたので、待ち合わせかなと思っていたら、一人でお寿司を食べに来られていたのである。
ワインを飲みながら、つまみから握りとおまかせコースを楽しんでいられる。
飲んで食べて2万円ほどの店であるから、よく若い女性が来られるなあと、まずは感心した。
おじさんは、つい自分の若い頃と比較してしまう。
自分が同じ年代の頃は、夜に寿司屋に一人では恐ろしくていけなかった。
まして夜の飲食に2万円出すなんて、清水の舞台どころから富士山の山頂から飛び降りるほどの金額である。
よほどお寿司が好きなのか、収入に恵まれているか、あるいはおじさんには想像もできないことがあるのかもしれない。
しかもおまかせのおつまみが終わり、「これから握らせていただきますが、よろしいですか?」と、ご主人が聞くと、「お刺身をください」というではないか。
大富豪である。
追加の刺身を結構食べて、握りに移られたのだが、さらに不思議なことがあった。
つまみや刺身の時も、握りの時も、ずっとスマホを顔の前に出し、脇目も振らずLINEをやられている。
しかし握りが置かれると、直ちに箸を伸ばされる。
口に入れて箸を置いた瞬間、口の中にまだ寿司が入っているが、直ちにスマホである。LINEである。
早急に片付けなくてはいけない問題があるのか、それとも実況中継をしているのか。
「おおっとここでカスゴが握られました。うまいぞこれは。真鯛の子供かと思いきや、これはチダイの子供であります。ジューシーさを残したほどよい締め具合、硬めに炊かれた赤酢のシャリとも実に合う。まいったあ。次はどうやらマグロの赤身のようであります。おっと醤油の漬け汁に漬けた。ヅケですか。これまた赤酢のとシャリの相性が楽しみダァ」
もう気になって仕方ない。
だがそんなおじさんの余計な詮索など、まったく意に返さず、彼女は淡々と、スマホ→握り→スマホ→握り→時折ワイン→スマホ→握りを繰り返す。
そして、僕よりたくさん食べ飲み、たくさん払って、颯爽と席を立たれたのであった。
写真の寿司は本編とは関係ありません。