恥ずかしい

食べ歩き ,

「恥ずかしい」。

オコゼが囁きかける。
軽快なカダイフが砕けて、白き肉体に歯が当たると、繊細な肉が天使の羽となって甘く舞う。
「はっ」。
その瞬間、噛んではいけないものを噛んだような、覗いてはいけないものを見たような、触れてはいけない高貴なものに、触ってしまったような感覚が、胸を突く。
オコゼが恥じらいながら、身悶える。
ふんわりと歯が包まれ、身が剥がれてはらりと舌を転がっていく。
穏やかな甘さの中に、命の尊さを伴った脆弱な美がある。
今にも切れそうな、たおやかさがありながら、たくましい。
それはオコゼのすべてである。
一見凛々しいオコゼから、エレガントを引き出した、高良シェフの知見であり、愛である。
愛を注がれたオコゼは、品のある酸味のを含んだトマトソースや、ペルノーの香りを潜ませたアメリケーヌと合わさって色香を膨らませ、一生忘れられぬ時として、僕らの心に深く刻まれる。
「レカン」にて。