朝食が面白い。

今東京は、朝食が面白い。

例えば、西麻布の「栩翁S」。昼夜の営業はせず、朝と夜の営業で、見事な朝食を出す。

夏盛りのある日のおかずは、島根の漁師が趣味で釣ったという、どんちっちアジ(島根の厳選された魚のブランド名)の塩焼き。

これに炊きたてご飯と上質なみそ汁、京都から送られた漬け物、スルメと炊いたキタアカリ、金山寺味噌と昆布の佃煮がつく。

シンプルながら、一点の曇りもない朝食に、精神のひだが伸ばされる。

脂がのったアジの濃い滋味に、今日という日の活力が鼓舞される。

朝九時。電車を乗り継ぎ、来たかいがあった。爛熟し、目新しい店や皿が、簡単には出会えなくなってしまった東京の外食状況で、唯一刺激を与えてくれるのは、外で食べる朝食なのかもしれない。

レストランでの食事は、非日常を体験する楽しみだ。しかし、昼夕食を外食する機会が多くなった現代人にとって、朝食こそ、非日常感が得られるのではないだろうか。

今まで外での朝食と言えば、ホテルかファーストフード店しかなかった。しかしそんな時代の空気を感じてか、優れた朝食を出す店が増えてきているのだ。

何せ一日の始まりである。いい加減ではすまされない。各店の朝食には、朝食とはこうあるべきだという心根が貫かれている。それを考えたらもう、食べ歩かずにはいられない。