「ジャガイモ炒め」と、名前は素っ気ない。
だが、これがただのジャガイモ炒めだと思ってはいけない。
これこそが、料理の凄みというものなのだろう。
青唐辛子と赤唐辛子、山椒と炒められた新ジャガイモは、若々しい香りに満ちていた。
必ず注文が入ってから切られた新ジャガイモは、これ以上でも以下でもない、針の穴のような一点を極めて、加熱されている。
ややもすると、山椒の痺れや塩気、唐辛子の辛味や油のコクが、ジャガイモにまさってしまうものだが、それが一切ない。
油のコク、塩気、酸味、甘味、辛味、痺れ味に、複雑な香りが混じったすべての要素が、幼いジャガイモの息吹を生かすことに向けられている。
ジャガイモは、シャキシャキッと歯を弾ませながら、しなやかさもある。
ぐっと噛み込むと、ジャガイモのほのかな甘い香りが広がって、鼻に抜けていく。
その気分こそが春である。
全神経を集中しながら炒めあげた、井桁シェフの表現する、春である。
目を凝らし、全神経を集中させて炒めるシェフの後ろ姿にオーラがある。古き良き時代の四川料理が、ゆったりとした空間で味わえる。
じゃがいも
ナス科ナス属の植物で、アンデスの高地原
16世紀にヨーロッパに伝わって以来、世界中で欠かせぬ野菜となった。
新じゃがは、春から初夏に出回る。
収穫後すぐに出荷され、皮が薄くみずみずしい。
春3月頃から鹿児島や長崎など九州産を中心に出回り始め、収穫前線が北上し6月頃まで続く。