日本で一番好きな酒亭が名古屋にある。
酒も肴も、皿や盃、品書きのカタチや文字、佇まいも内装。すべてに、一点の曇りもない。
そしてなによりご主人と奥さんの人柄が素晴らしい。
タベアルキストを廃業したら、この近くに移り住んで、毎週いくぞ。
そう思っている。いつになるかはわからないけどね。
先日は、「キスの立て塩」、「こちの刺身」、「鰆たたき」に「金時草のおひたし」を頼み
「ワタリガニ」、「青柳と海松貝、アスパラガスとパプリカの酢味噌和え」、「穴子と万願寺唐辛子の煮物」、「味噌粕汁」、「かくや」、「茹でたて落花生」、「コチと牛蒡の煮物」で、したたか飲んだ。
どれも食材への気持ちが満ち満ちていて、味がピタリと決まっている。
その辺りの割烹も高級料理屋も、はだしで逃げたくなる品格がある。
〆は、オコゲの茶漬けと天むす
天むすは私の知る限り、完璧なる天むすである。
これこそが、「料理をする」という意味が貫かれた天むすである。
つまり。絶望的においしい。
それぞれの料理のことを山ほど書きたい。
しかし今夜は二つにとどめよう。
「コチの刺身」は普段見かけるのと様子が違う。皮目が銀に輝いているのである。
聞けば、ほかの魚とは違い、皮を頭から慎重に引くのだという。
口にすれば、力強く、海の、昆布のようなミネラルが、噛むごとに湧き出てくる。
こちがまだ生きていて、躍動している。
「かくや」沢庵、胡瓜、茗荷の細切りを合わせ混ぜたものである。
しかし、これは真似ようにもできない。
ご覧あれ。恐ろしく細く、同寸に揃えられているのである。
そのため口に入れると、空気を食べているかのような軽さの中から、三者の香りが弾けていく。
このことこそ、「よき仕事」という。
日本で一番好きな酒亭が
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