祖母は、小学生の孫を連れて買い物に行くのが好きだった。
買い物といつても、和菓子か、書道関係のもの、扇子などである。
孫の楽しみは、食であった。
デパートの大食堂でエビフライかチキンソテー、銀座若松でのあんみつ、人形町芳味邸のシチュー、煉瓦亭のカツレツ、銀座コックドールのグリンピースのスープ、キャンドルのチキンバスケットなどである。
この世にこんなおいし物があるのかと、無我夢中になった。
その中の一つが、新宿中村屋のカレーである。
昭和40年ごろであるから、カレーといえば、黄色くどろっとして、具は、豚肉とじゃがいも、人参という姿だった。
ところが運ばれてきたカレーを見るなり、「どこがカレー?」と、目を丸くした。
まずはご飯にかかってない。
骨付きの鶏肉が入っている
じゃがいも、それもひとかけらし入ってない。
茶色い。
どろりでなく、さらりとしている。
しかも辛い。
酸っぱくもある。
といった具合に、ことごとく今までのカレーの概念を覆すものだった。
しかし「辛い。辛い」と言いながらも、次第に沼にハマっていったのである。
以来「今日は新宿に行くよ」と言われると、「中村屋がいい」と、おねだりしたのだった。
久しぶりにいただいた。
花らっきょう、アグレッツィというロシア風胡瓜のピクルス、オニオンチャツネ、マンゴチャツネ、レモンチャツネ、エダムチーズと薬味も豪華である。
辛味、酸味、うまみ、香り、油脂が丸くまとまり、インド料理好きもインド料理を食べたことない人でもとらえるカレーはそうはない。
このカレーの良さは、なんといってもほどの良さだろう。
そしてこのカレーは、フォークで食べる方が断然おいしい。
そしてカレーを少しずつかけながら、ご飯を前進させ、カレーを一滴でも逃さず食べるのが、好きである。
ただし僕の場合、カレーたっぷりで食べるのが好きなので、ご飯が余ってしまう。
最後は、ソーススプーンを白い米で洗い、ソースボット2個目を入れて混ぜ、わずかに残ったカレーをかけてよくよく混ぜ、そこにおろしチーズをかけて、カレーピラフ風にしてたべる。
この時は、断然スプーンがいい。
折しも店内ではお金持ちそうなインド人大家族がこのカレーを食べていた。
もちろん彼らは手食である。
今度来る時は、こっそり手で食べてみよう。
それを見て、咄嗟にそう思った。
新宿中村屋カレー
食べ歩き ,