底が見えぬほど深い

食べ歩き ,

底が見えぬほどに、コク深い。
しかし凄みは見せずに、穏やかにある。
まったり。
汁は、軽くなく、重くなく、薄くなく、濃くもない。
地平の彼方までまろやかな味わいは、体を弛緩させ、心を抱きすくめる。
これこそが白味噌椀である。
「料理というのは、そこに入るものが何一つとして無駄な味になってはいけません」。

「浜作」森川さんは、その言葉通りに白味噌椀を仕立てた。
無駄な味にしないとは、自然がお手本ということである。
自然とはなんであるかを突き詰め、自然を生かすことなのだろう。
豆腐をさいの目にしては、味がわからない。
だからこそ六つ切にし、湯で優しく温める。
白味噌は、煮立たすことなく、90度に温める。
椀に豆腐を置き、白味噌を静かに注ぎ、白味噌汁で溶いた辛子と三つ葉軸を乗せ、蓋をする。
一つ一つの仕事に理りがあり、敬意がある。
飲めば、液体なのに球体となって滑り、舌を包みこんで、精神をほぐす。
熱々の豆腐はその中にあって、白味噌と同化しながら、豆の甘みを膨らます。
永遠の幸せがここにある。
正確に伝えていかねばならぬ、幸せがここにある。