ざぶん。

食べ歩き ,

分厚い肉体に歯を入れれば、海の豊穣がじゅるりと流れ出す
噛んでおくれ。
そう耳元で囁かれるままに従って、噛む。噛む。
滋養が、液体となって次々に湧き出してくる。
ざぶん。
口の中に波の飛沫が弾け飛ぶ。
一方薄切りにされたものを、歯先で噛む。
するとどうだろう。
今度は潮の養液が香りとなって立ち上り、口の中を満たし、鼻腔へと抜けていく。
その香りの豊かさに、自然の生業に陶然となって目を閉じれば、海底へと引きずり込まれる。
日比谷「鮨 なんば」にて。