メンチカツや串カツでお酒を飲むのは、大人の特権である。
本来はおかず。
それもご飯をワシワシと食べたくなる、強力な兵器である。
それを肴にしちゃう。
それで酒呑んじゃう。
ご飯をもりもり掻き込めばみたいなあという欲望を、心の底に寝かせて、静かに酒を飲む。
これはオトナでなければできません。
欲望の統制ができ、酒への深い敬意がある、オトナの度量がないとできません。
だから居酒屋で揚げ物を見つけると、つい頼む(単にフライ好きだという説もあるが)。
渋谷「高太郎」ではメンチカツを、北千住「大はし」では串カツを、十条「斎藤酒場」ではカレーコロッケを、秋葉原「赤津加」では串カツを、千住大橋「田中屋」ではとんかつを頼んじゃう。
そいつらにビール、熱燗、焼酎を出会わせ、じっくりと楽しむのである。
常連のおじさんたちも必ず注文し、独酌する姿が見受けられる。
美しい光景じゃありませんか。
オトナでよかったと、しみじみ思う光景である。
そしてここ「わくい亭」ではメンチカツといこう。
長さ十五センチ、幅十一センチという勇姿は、巨大なのに、均一に火が通って香ばしい。
世界最強のメンチカツである。
ジッジッと音を立てる熱々の衣に箸を入れれば、半透明の肉汁が滲み出る。
衣に歯を立てれば、甘い肉汁が溢れだし、もう笑いは止まらない。
ビールでも、燗酒でもよし。
ソースもいいが、酒に合わせて、塩をふる、醤油をかけるなどしても楽しいぞ。
顔を上げれば、メンチを囲む一同が、子供ような屈託のない笑顔を浮かべている。
そう、酒場のメンチカツは、オトナのお遊戯なのである。