次に訪れたのは、老舗格のリストランテ、「ザバティーニ・ディ・フィレンツェ」である。創業 年。東京のイタリア料理黎明期に開店したリストランテである。
シェフは、バルディ・ヴィルジオさん。開店時に来日し、83年の再来日以来、有名なサービス人のトンバさんと共に、30年間この店の味を守っている。
まずは名物、スパゲッティアラサバティーニはいかがか。玉葱、唐辛子、バジル、グアンチャーレ(豚頬肉の塩漬け、トマトソース、卵黄、パルミジャーノを使った料理で、テーブル脇にて、給仕長が仕上げてくれる。
フィレンツェの本店で考案されたという、トマトソースに卵黄という組み合わせが珍しい。
食べれば滑らかなトマトソースに、グアンチャーレの滋味と卵黄の甘みが溶け込んで、うま味はいっそう深く、かつ丸みのある味わいに、フォーク持つ手が止まらない。
「カルボナーラのトマト味といったところでしょうか」と支配人の秋山さんは笑うが、この濃厚ながら品が漂うソースは、クセになる。
続いて「ポルチーニのタリアッテレ」。運ばれた瞬間、芳香に顔が包まれて目を細める。クリームを使わず、茸から滲み出た汁とバターを乳化させた素朴な味わいの強さが、生パスタにしなだれて、おいしいこと。食べる度に、充足のため息が出る。
シェフは、生パスタも得意とする。タリオリーニ、キタッラ、ピチ、パッパルデッレ、ストラッツァプレーティ、トロフィエ、ラビオーリ、ニョッキなどが、寒い季節に真価を増す、肉のラグーや野菜と出会う。そう思うと、もう居ても立っても居られない。
本来パスタだけを、こうして二~三種食べるのは反則だが、麺好き民族の性が高じて、もう、止められないのである。