「ジャンボンドバイヨンヌ 18ヶ月熟成生ハム 玉ねぎのキッシュ」。メニューにはそう書かれていた。
シェフは、生ハムの塊を取り出すと、鮮やかな赤のベルケル製スライサーで、慎重に切っていく。
ハムは、皿の中央に置いたキッシュの上にこんもりと乗せられた。
ハムをよけてキッシュにフォークを差し込んだ途端、目を丸くした。
キッシュがとろとろなのである。
だから甘い。
自然に、丸く、濃密ながら穏やかな甘みが、口いっぱいに広がっていく。
そこに生ハムを合わせる。
キッシュによって温められたハムは、香りと旨味をそっと膨らませ、玉ねぎの甘みにより添う。
なんとも幸せな、満ち足りた時間が、ゆっくりと降りてくる。
二子玉川「前芝料理店」にて。