ぐじは、濡れていた。

食べ歩き ,

ぐじは、濡れていた。
魯山人の瀬戸萩に乗せられて、しっとりと輝いている。
身をよじらせながら、ねっとりと、歯にからみつき、舌に吸い付いてくる。
一塩されて置かれた身は、自らの体液を凝縮させて、甘い。
いや、甘いというのも失礼かもしれない。
それはそっと口づけされた時に似て、はかなく、切なく心に火を灯す。
“甘い”を超えた慈愛の味わいなのである。
「辻留」にて。