かぼちゃと注文したら上海蟹が出てきた。
正確には、「カボチャのトルテリーニが食べたい」である。
無茶振りでもなんでもない。
しかし奥野シェフは、ひねりにひねってきた。
上海蟹のスープの中にカボチャのトルテリーニが潜んでいたのである。
蟹の臭みを出さぬよう、トンカ豆とフェンネルを加え、トルテリーニを加える。
少量入ったカボチャの量がいい。
皮とカボチャが同時に口の中から消えていく時間に、優美がある。
そのカボチャのささやかな甘みとトンカ豆の甘い香り、蟹味噌の濃密な甘みが共鳴し合いながら、口の中で溶けていく。
やられたな。
柿、と注文したら、柿は形をなしていなかった。
ドロドロである。
イタリアで柿は、硬いまま食べることはないという。
熟しすぎたのをソースのようにして食べるのだという。
それにしてもイタリア人が柿を食べるとは知らなんだ。
ブラータと合わせ、ホワイトバルサミコと塩、オリーブオイルをかけてある。
いい。
これは家でも真似しちゃうぞ。
サンマと頼んだら、パスタになって出てきた。
シチリア風イワシとウイキョウ、松の実のパスタのサンマバージョンではない。
新たな料理であった。
一回燻製させた秋刀魚と、肝、トマト、ジェノベーゼを合わせて、白インゲン豆とともに、パスタに絡め、バジルを散らしてある。
まずは肝、トマト、ジェノベーゼの合わせがいい。
肝の苦甘みに旨味と爽やかな香りを混ぜて、味わいに起伏を呼び込んでいる。燻製もいい。
軽い勲香と脱水したサンマの肉がパスタと馴染む。
更に白いんげん豆の優しい甘みが、全体の味わいを少し和らげる。
それは、リグーリアにはこんなパスタがあるんですよと言われたら、信じちゃいそうな自然な味だったのである。