〜盆地の悦楽〜
沼袋は盆地である。
雨の日にたまった水たまりが、袋のように見えるのでついたという。
陰湿なじめじめとした地は、地代も安く、低所得階級の人たちが多く移り住無用になった。
その街を活気づけようとしたのか。
昭和39年、まだ飲食店などない沼袋に、男は店を開いた。
彼は、戦後まもなく中央線沿線に数店舗展開をしていた、「ホルモン」という焼きとん屋出身だったが、いつしか他の店はなくなり、今は沼袋にだけに「ホルモン」はある。
白髪の寡黙なご主人は、15年前から焼き台に立つ二代目である。
今夜もおっちゃん達が、ホルモンをつまむ。
一人客が多いのもこの店の特徴で、皆、心の底に笑顔を浮かべながら、幸せそうに飲んでいる。
オッチャン達の保育園である。
「ちょい焼き」は、レバーと子袋を軽くあぶる、。
レバーが赤線で消されているので
「レバーちょい焼きないんですか?」と聞くと
「あるよ。いつもより焼かないとだめだけどね」と、出してくれた。
生姜醤油で食べるレバーのちょい焼きは、生より甘さがにじみ出て、クセになる。
常連はまずちょい焼きだ。
「二本、二本ちょいね」なんて、頼んでいる。
ビールから梅割り焼酎に移り、ちょい焼きを楽しんだ後、まめ、ひも、がつ、ハツ、カシラ,ひら、レバー、おっぱいと、一通りほおばった。
甘みや苦味、あふれる鉄分やミネラルが、梅割り焼酎をおかわりさせる。
勘定は2300円。
この店では、かなりの散財してしまったなあ。
閉店