「雷神」

食べ歩き ,

風神とくれば雷神である。
朱、緑、藍、黄で「風神、雷神」の四文字が書かれた小鉢が登場した。
顔を近づけて、ゆっくりと蓋を取る。
その瞬間、春の香気が顔を包んだ。
力に満ちた緑の精が、体に英気を吹きいれる。
目を閉じれば、たわわに実ったサヤインゲンの畑の中にいる。
自然の自然たる爽やかが、体を清めていく。
シャッキと、先ほどツルからもぎ取ったばかりのような、みずみずしい甘さが弾けるサヤインゲン。
口に含むと、上品なお出しがちゅるると口を満たす、高野豆腐。
淡い甘さで味を染み込ませた、ほっこりとうまいフキ。
それぞれの持ち味を引き出しながら、互いを気づかう優しさがある。
「おいしい」。と一言、ふわりとほほ笑んだ。
ここは一人3万円もする、高級割烹である。
しかし、決して高級食材でない三者に敬意を払う力量の凄みに、痺れた。
素直で澄んだ、自然への敬いに、心が熱くなる。
食べ終えて、味わいを反芻していると、どこか頭の片隅で、遠雷が鳴り響いた。