一口食べた瞬間に、海の底に引きずり込まれた。
光の届かない深海でひっそり蠢く、蟹の霊妙がある。
柑橘を少し混ぜた熱々ご飯の上に、蟹肉に蟹味噌をたっぷりと混ぜ込んだものをのせた、蟹味噌丼である。
しかしそこには工夫があって、ご飯1割蟹味噌和え9割の割合であるという。
つまり最初は、蟹の澄んだ甘みと味噌の深みを頰張りながら食べ進むと、ご飯の甘みに出会うという仕組みである。
食べゆくうちに霊妙な味わいは深まり、海の底に沈んでいく。
音のない、光もない世界の中でしか味わうことのできない、深淵の味といってもいいかもしれない。
蟹をあるがままに生かすことを、考え、考え抜いた山田さんが辿り着いた、抗うことのできない味でもある。
食べながら思った。
こんな奈落なら落ちてもいいと、思った。
そう。
口福という奈落へと落ちていく「ならく丼」である。
鳥取「かに吉」
「ならく丼」
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