京都「浜作」

〈松茸の真実2〉

食べ歩き ,

いつも思うのは,おじいちゃんがどんな味にしていたかということです」。
松茸の土瓶蒸しを作りながら、森川さんは言われた。
こちらの土瓶蒸しは,鱧と松茸だが、他とは仕立て異なる。
まず香りが高い松茸の傘部分を切り、出汁に入れる。
酒,塩,薄口を入れて味をきく。
同時に鱧を切る。
左手を氷水で締め、鱧の骨切りをするのだが,皮 必ず骨だけでなく、皮の80%まで切り込みを入れる。
その後に、塩をし,葛を打ち、丸めて別の出汁に入れる。
丸める方向も,他とは違い、横に丸める。
この鱧と松茸の仕事を同時進行させ、それぞれが最高の滋養隊になった時、器に入れる。
つゆを張った土瓶には松茸だけ。
黒塗りの椀には,鱧だけを入れる。
まず,土瓶からつゆを猪口に注いで飲む。
ああ、なんということだろう。
松茸の香りが顔を包むと,豊かで丸い滋養が舌を抱きしめた。
そのうまみは、深淵が見えぬほど深い。
「松茸土瓶蒸しは、味をやや濃くしなくてはいけません」。
そう、森川さんは言われた。
圧倒的な香りと調和なのだろうか。
こつくりとした、濃い味わいが幸せを運ぶ。
濃いと言っても、塩が舌に当たるわけではない,
豊満ながら品があり,たくましさを感じさせながらまろやかである。
それも,たっぷりの真昆布とまぐろ節でとられた、贅沢な出汁があってこそ成立するのだろう。
しかも驚くべきことに、濃いおつゆの中から、松茸の汚れなき、淡い甘さが溶け込んでいることを感じさせるのである。
さて,つゆを飲んだ後は、松茸を食べる。
次に酢橘を松茸に一滴垂らして食べる。
椀の蓋を開け、鱧に土瓶のつゆを注いで、食べる。
鱧は.ふわりと崩れ、舌に優しい甘みを落とす。
海と山の豊穣は、こうして手を繋ぎ、一つとなって、転がっていく。