とんかつ自伝 Vol1

食べ歩き ,

「と・ん・か・つ」。

もしいま、耳元で囁かれたら、僕は一気に崩れ落ちる。

仕事やゴルフ、車や愛人(ちょっと見栄張りました)のことを考えていても、即座に思考は停止し、心拍数が上がって鼻息が荒くなり、頭のてっぺんからつま先まで、とんかつになっちゃう。

もう目の前にはとんかつ様が横たわっている。浅緑色のキャベツを枕にしている。

からりと狐色に揚がった衣から、ラードの香りがぷんと漂って、鼻腔をくすぐる。喉が鳴る。中心をほんのりピンク色に染めた断面を、箸でちょいと押してみる。

じっ。

半透明の肉汁が染み出す。

急げ。

すかさず一切れを口に運ぶ。

「サクッ」。

軽快な音が響いて、歯は衣を突き破り、肉にめり込んでいく。瞬間、甘いジュースが流れ出て、口の中をゆるゆると満たしていく。

「あうっ」。

嗚咽をもらして、笑顔となる。幸せが全身を走る。

よし次は塩でいってみるか。その後にソース、ご飯という段取りでいこう・・・。

そんな光景で頭の中は埋めつくされる。

こうなるともう、居ても立ってもいられなくなるわけですね。

「とんかつぅぅぅ」と、叫びながら、上野浅草方面(赤坂方面の時もあり)に走っていくしかないのである。

関西人なら「び・ふ・か・つ」だろうが、僕は断然「とんかつ」である。「エビフライ」でも「カキフライ」でも、「ハンバーグ」でもない、とんかつである。

こんなに症状が激しくなったのは、最近になってからであった。

年を重ねると油っぽいものは食べたくなくなるという人が多いが、どうやら僕の場合は逆である。

ただ、とんかつを食べようとすると、「いまの体重をどう考えているのか」。

「年齢的に論外だろ」。

「ただでさえ食べすぎなのにとんかつなんて」。

「カロリーの高いものは、取材以外ではやめると誓ったのに」。

「またメタボリックを促進させるのか」と、内なる声が次々と叫びだす。

それでも食べちゃうもんねと意固地になり、半ば凶暴になって、とんかつ屋に出向くもんだから、余計にうまいんですよ、これが。

とんかつを目の前にして、太ってやるぞうハハハ、というマゾと、食らって食らって征服してやるわいというサドが交錯するので、なおさらうまいんですね。

幸か不幸か、会食や取材で食べなくてはいけない予定が詰まっているので、とんかつは滅多にいただけない。

今日はなにもないなあという空白に、とんかつは登壇する。

空白とんかつ。

エアポケットかつ。

ほら、そう思うと、「こうしてはいられぬ」と、一刻の猶予もない気持ちになってくるでしょ。

以下次号

もしいま、耳元で囁かれたら、僕は一気に崩れ落ちる。

仕事やゴルフ、車や愛人(ちょっと見栄張りました)のことを考えていても、即座に思考は停止し、心拍数が上がって鼻息が荒くなり、頭のてっぺんからつま先まで、とんかつになっちゃう。

もう目の前にはとんかつ様が横たわっている。浅緑色のキャベツを枕にしている。

からりと狐色に揚がった衣から、ラードの香りがぷんと漂って、鼻腔をくすぐる。喉が鳴る。中心をほんのりピンク色に染めた断面を、箸でちょいと押してみる。

じっ。

半透明の肉汁が染み出す。

急げ。

すかさず一切れを口に運ぶ。

「サクッ」。

軽快な音が響いて、歯は衣を突き破り、肉にめり込んでいく。瞬間、甘いジュースが流れ出て、口の中をゆるゆると満たしていく。

「あうっ」。

嗚咽をもらして、笑顔となる。幸せが全身を走る。

よし次は塩でいってみるか。その後にソース、ご飯という段取りでいこう・・・。

そんな光景で頭の中は埋めつくされる。

こうなるともう、居ても立ってもいられなくなるわけですね。

「とんかつぅぅぅ」と、叫びながら、上野浅草方面(赤坂方面の時もあり)に走っていくしかないのである。

関西人なら「び・ふ・か・つ」だろうが、僕は断然「とんかつ」である。「エビフライ」でも「カキフライ」でも、「ハンバーグ」でもない、とんかつである。

こんなに症状が激しくなったのは、最近になってからであった。

年を重ねると油っぽいものは食べたくなくなるという人が多いが、どうやら僕の場合は逆である。

ただ、とんかつを食べようとすると、「いまの体重をどう考えているのか」。

「年齢的に論外だろ」。

「ただでさえ食べすぎなのにとんかつなんて」。

「カロリーの高いものは、取材以外ではやめると誓ったのに」。

「またメタボリックを促進させるのか」と、内なる声が次々と叫びだす。

それでも食べちゃうもんねと意固地になり、半ば凶暴になって、とんかつ屋に出向くもんだから、余計にうまいんですよ、これが。

とんかつを目の前にして、太ってやるぞうハハハ、というマゾと、食らって食らって征服してやるわいというサドが交錯するので、なおさらうまいんですね。

幸か不幸か、会食や取材で食べなくてはいけない予定が詰まっているので、とんかつは滅多にいただけない。

今日はなにもないなあという空白に、とんかつは登壇する。

空白とんかつ。

エアポケットかつ。

ほら、そう思うと、「こうしてはいられぬ」と、一刻の猶予もない気持ちになってくるでしょ。

以下次号