山菜の女王と呼ばれるコシアブラは、喉や鼻腔の襞を清めるごとく、清涼な風が吹く山菜である。
その香りはしたたかで、どんなに調理しても生きている。
天ぷらや御浸しではもったいない。
飯田「長屋門桒原」で、その真実と出会った。
冷めたご飯に、刻んだコシアブラと胡麻。少しだけごま油を混ぜ、寿司の形に握って、上にコシアブラを乗せる。
当然ながら、最初は牛の味が来る。
脂の甘みや焼けた肉の香りが来て、食欲を煽る。
しかしその後から、清廉な風が体の中を吹き抜けて、爽やかな気分にさせるのであった。
肉に負けていない。
これはあらゆる山菜の中でもコシアブラだけができる実力である。
最後は、ガーリックライスを出すというので、そこにコシアブラを混ぜてもらった。
炒めたご飯に、緑が映える。
これも当然ながら、最初に香るのはニンニクである。
しかし噛んでいくと、ニンニクの陰から、突然コシアブラが現れて、粘膜をリフレッシュさせる。
しつこく、たくましい香りを消し去り、すべてを自分のものとするのである。
だから、際限なく食べられてしまう。
聞くところによると、アーリオオーリオぺぺロンチーノに混ぜても、大変美味しいらしい。
だが自ら採って来たコシアブラだからできる。
スーパーで買ったら、一人前900円くらいかかってしまう。
店で出したら3000円くらいしてしまうだろう。
それでも食べたい。