秋田「酒盃」の素晴らしきところは、燗づけである
雪の茅舎、天の戸、飛良泉、刈穂。
それぞれの酒の良さを、ふんわりと滲ませ、心を包みこむ。
独酌がしたくなる、柔らかな燗づけが嬉しい。
肴はまず、箱膳に入れられた料理の盛り合わせから始まる。
ほろりと炊かれた、身欠きニシン燻製、滑らかで、ほのかに甘い、比内地鶏白レバーコンフィ、味が染み渡った、フキの煮物、ほどよい締め具合に仕上げられた、シメサバ、丁寧な仕事が光る、ごま豆腐の五点が、箱膳の中に鎮座している。
こいつらを、ちょいとつまみながら酒を飲む。
ううむ、箱膳だけで一合半は飲んじゃうなあ。
続いてお造りが出される。
アジ、真イカ、鯛、ソイの4点だが、中でもソイがいい。
東京では、なかなか出会うことのないソイの刺身が、薄赤い身を見せながら誘う。
食べれば、じっとりとした甘みがあって、それが酒の甘みに寄り添う。
その後は、「じゅんさいとウニ」、「カニあんの茶碗蒸し」、「エビや山菜の天ぷら」、「比内地鶏のモモ、胸、せせり、皮、砂肝、レバーの串焼き」と、秋田の食材を使った料理が続いて、酒をぐいと飲ませるのだが、今回はこのコース以外に、どうしても頼みたい料理があった。
「クジラ貝焼き」である。
ホタテの貝殻を鍋に仕立て、クジラ肉とナスを煮た郷土料理である。
鯨の脂をまとったナスが、甘い。
ナスと油は相性がいいというけど、鯨の脂特有のかすかな獣臭と出会うと、なにやらナスに、勇壮さが加わる。
そんなナスをつまみながら、燗酒をやる。
クジラの脂が、口腔内や喉に流れて、ぬっくりとぬっくりと、体が温められる。
なにか永遠に盃を重ねられそうな、気分となってくる。
そして続く、豆腐饅頭の素朴な甘さに目を細め、冬瓜と椎茸、アオサのすまし汁の滋味に充足のため息をつく。
最後は、そばでキリリとしめて、席を立つ。
ああ次は、いつ来られるのだろう。