この歳でも、この食べ歩き数でも、まだまだ世の中には知らないことがある。
それをこの鍋に教えられた。
例えば今まで数多くの水炊きを食べてきた。
しかしこの店のように、鶏肉がアミューズで、白菜が主役という鍋は初めてである。
主役はもう一人、米も控えている
この二つを活かすために、鶏肉も豆腐もえのきもネギも、絶妙な脇役としての役目を果たす。
そしてすべてを食べ終えた時、鶏肉の偉大さに感心し、感謝するのである。
食べ始めてから終わるまで約4時間、鶏肉の滋味が変化し、野菜や穀物を様々に生かすドラマを味わう。
そうして幸せと満腹に浸りながら、人智の深さと無力さを思い知る。
神楽坂にて。