ここは大人の保育園。
「浜作本店」で、そう思う時がある。
上質なお客さんたちは、相好を崩し、楽しそうに飲み、食べ、話をし、笑っている。
毎晩美味しい賑わいに満ちたこんな割烹は、どこを探してもない。
板前割烹の祖である。
座敷での食事が通念だった大正13年に、お客の目の前で捌き作る「板前割烹」を、大阪は新町に初代が開店し、大評判となった。
昭和三年に銀座に移転し、関西割烹の魁となり、多くの名士や文士が訪れるようになる。
「こちの薄造り」、「カレイの煮おろし」、「沢煮椀」など名物があるが、冬なら「甘鯛のちり蒸し」だろう。
甘鯛の中でも希少な「しらかわ」を使い、出汁と蒸しあげた料理である。
ほろりと崩れる白い肢体を口に運べば、ほの甘い滋味が舌を流れる。
その淡い甘さの中に、赤甘鯛とは違う気品があって、心が安寧に包まれる。
しらかわのエキスと脂が溶け込んだ出汁も、たまらない。
細胞の隅々まで染み渡っていく旨味があって、この汁だけで燗酒が一本飲めてしまう。
また昨今のおまかせ一本やりの割烹とは違い、どの料理も好きなだけ頼めることが楽しい。
かつて白洲次郎などがやっていたように、一人で来てカウンターに座り、好きなものを注文して飲む。
そんな一流の男たちの姿が似合う割烹でもある。