天現寺 j広尾 新中国家庭料理「浅野」 閉店

香 菜 伴 麺 千 円

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香 菜 伴 麺 千 円
新中国家庭料理の看板を掲げる「浅野」は、毎夜盛況となる人気店である。
その秘訣は、コースが三千五百円から用意されるように、手頃な値段で中国料理を楽しめることと、料理長浅野俊昭氏が生み出す創作料理にある。
創作料理というと、奇抜で小難しい料理を思い浮かべるむきもあろうが、浅野氏の作品は、「カボチャと挽き肉炒め」「有機トマトとハムのサラダ」「餃子鍋」など、身近な素材を使った創作惣菜で、実に親しみやすい。

そんな「浅野」の夏の人気メニューが「涼麺」である。
「涼麺」は三種類用意され、蒸し鳥、クラゲ、海老、チャーシューなどが乗せられる「五目涼麺」。高菜と牛すね肉のチャーシューを、醤油、豆板醤、牡蠣油で炒め、麺とあえた「高菜とチャーシューのあえそば」。「葱と香菜のあえそば」といったラインナップだ。
いずれも工夫がなされていて、新鮮な驚きが味わえるが、中でも一番のお奨めは、「葱と香菜のあえそば」である。

実に涼しげな顔つきをした涼麺で、白髪ネギの白、麺の淡黄、香菜の緑を中心とした色彩に、クコの実と赤ピーマンの赤が彩られている。
ところが一端口すると、その簡素な顔つきと裏腹に、複雑に入り交じった、味と香りに翻弄されるのだ。
味付けは、少量あえられた胡麻油、スープ、醤油、砂糖、酢からなる甘酢っぱいタレなのだが、甘みが柔らかく、一口目のインパクトより後味に引かれる優しい味わいである。その優しさに、香菜のクセのある味、シャキシャキとした葱の歯触り、麺のツルンとした口触りが次々とからむので、加速度的に麺の魅力に引き込まれてしまう。
そしてさらに舌を巻くのは、香りである。

主体となるのは、葱と強烈な香菜の香りだが、食べ進むうちに、胡麻油、オリーブ油、山椒がかすかに香るのだ。
聞けば、こんもりと盛った葱の上から、カンカンに熱したオリーブ油と山椒の香りを移した油を、かけるのだという。
この幾重にも重なりあった香りの層が、このシンプルな麺料理を、より奥深いものにしている。
このように味と香りに、簡潔さと、複雑、繊細さを持ち合わせるため、飽くことがない。さんざん料理を食べたあとでも、ツルリと入ってしまう。
「涼麺」は九月半ばまで出しているそうなので、あと一ヵ月。急げ。

写真はイメージ

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