京都「天よし」

海老食べはりますか?

食べ歩き ,

100年続く天ぷら屋である。
だが驕ることなく、威張ることなく、ひっそりと木屋町の街中で息づいていた。
いただける天ぷらは、海老。
ひたすら巻海老の天ぷらが揚げられる。
昨夜は、かき揚げも合わせると、10数尾は食べただろうか。
高温であげられる天ぷらの衣は、サクッではなく、カリリと弾ける。
そして海老は、モチっと歯が入っていく。
このカリリ、モチッがいい。
カリリ、モチッの対比が楽しく、何本でも食べられてしまう。
そしてここが面白いところなのだが、三本目あたりから次第に海老の甘みが口に積り、積り積もって、甘みが膨らんでいくのである。
五本も食べれば、口の中は、春のひだまりのような麗かな甘みで満たされ、すっかり幸せな気分となる。
エビの他は、キスである。サツマイモである、蓮根である。
といった具合に、天ダネは4種類しかなく、潔い。
お連れいただいた方が言うには、先代の頃にカウンターに座ると、海老とキスしか無いのに、「海老食べはりますか?」 「キス食べはりますか?」と、聞かれたという。
そんな飄々としたやりとりが、古き良き時代のゆとりであり、洒落でもあったのだろう。
締めは、うますぎない赤だしの味噌汁と白いご飯である。
僕は、海老頭の天ぷらをご飯にのせて塩をふり、箸先でちょいと天つゆを散らし、変わり天バラ丼に仕立てて、楽しんだ。