<麗しい違和感>
その特殊な違和感を、最初に感じたのは、Paris「L’ARCHESTE」伊藤良明シェフの料理だった。
仔牛のタルタルと牡蠣、キャビアを組み合わせた料理、オマールとキャベツ、フォアグラと白トリュフを組み合わせた料理を食べた時に、それはやってきた。
珍しい組み合わせとハーブやスパイスの使い方に、今まで食べてきた日本人のフランス料理とは違う、目眩を覚えるほどの香りを感じたのである。
その感覚は、フランスで食事をしていると、時々やってくる。
特に香りの使い方や、野菜の味である。
日本でもフランスの野菜やハーブは手に入る。
だが、そこに住み、永く暮らしている人でないと、表現できないことがあるという事実を、痛切に思い知ったのである。
それは異文化としての、越えられない違和感である。
違和感に触れ、未知の魅力を知った喜びが渦巻き、心がときめく。
そう。
「麗しい違和感」なのである。
残念ながら日本では、まだその感覚が降りてきたことはない。
しかし、先日訪れたレストランで、いきなり「麗しい違和感」に遭遇した。
パリで数十年レストランをやり、先日東京に開店した青木シェフの店である。
例えばこの縞鯵のマリネをが、そうだった。
ディルでマリネし、オレンジ果汁で煮たフヌイユを添え、その煮汁をソースとした前菜である。
縞鯵は、よくよく知ったる縞鯵は、日本を遠く離れ、コートダジュールの海辺にて、パラソルの下で涼んでいる。
そしてフヌイユは、今まで出会ったことないエレガンスを身につけ、そっと微笑む。
爽やかな色気が皿に漂っていて、白ワインが恋しくなる。
そこに日本人の影は見えず、フランスという国から縞鯵とフヌイユを見つめた、静かな熱狂があった。
僕は、その熱狂にコーフンする。
いつまでもこの感覚を続けて料理を作って欲しいと、わがままに懇願した。
「はいありがとうございます。実は先日も焦がしたアンディーブをお出しして、こんな苦いものは食べられないといわれたばかりです(笑)。日本に来てどんな料理を作るか散々悩みました。多くの料理を試作しました。その時、長くパリで一緒に働いてきた姉に言われたんです。今までのあなたの料理を作りなさいと」。
そう青木シェフは言われた。
ホテルブリストルに近いパリ8区で、多くのフランス人のエグゼクティブに、気軽に楽しまれてきた料理である。
もしあなたが、知的な好奇心に富み、フランス料理がお好きなら、是非訪れて欲しい。
東銀座「レフ青木」
<麗しい違和感>
食べ歩き ,