吉祥寺「雲蓉」

<愛すべき変態>

食べ歩き ,

細い細い麺が、透明なスープの中で、出番を待っていた。
麺をすすれば、唇をそよ風のように触れて、卵の優しく、甘い風味が広がった。
イタリヤ料理なら、さしずめタヤリンインブロードである。
スープのうま味は淡いが、どこまでも滋味深い。
その気品ある滋味の中を、ほのかに甘い細麺がたなびいていく。
なんと典雅なる時間だろう。
おそらく清の皇帝や女帝たちは、毎日のようにこんな麺を食べていたのに違いない。
「一度作って見たかったんです」。
シェフが作りかった麺は、4時間近くかかったという。
スープにした清湯は、干し貝柱と金華ハムでいったん抽出し、それを冷蔵庫で冷やして余分な脂を取り除き、牛肉で清まし、豚肉で清まし、最後に鶏肉で清ましたという。
今ではほとんどやるところのない、四川伝統清湯のやり方を、曲げることなく、やり続けられている。
「寝る時間がなくて、眠いです」。
北村シェフは、一人で料理をやられているのでお疲れの様子だったが、顔は晴れ晴れとされていた。
昔ながらの手間暇かかる仕事を、忙しくとも、睡眠時間を削ってもやり遂げる。
だからこそ生まれる清い味は、どこまでも澄み切って、潔い。
そう、愛すべき変態は、ここにもいる。
開胃菜「広韓金絲麵 黄金麺の四川伝統清湯仕立て」吉祥寺「雲蓉」にて。