<刻んで入れてスイッチ入れただけです>

食べ歩き ,

<刻んで入れてスイッチ入れただけです>
伊東くん、痺れるミネストローネをいただきました。
ミネストラ、野菜と豆のごった煮ですね。
一口すくって、顔が輝きました。
心が、安寧という底なしの沼に沈んでいく。
言葉が何も出ない。
それほどに慈愛に富んで優しく、たくましい味なのです。
豆と野菜の甘みが混沌と境目なく溶け込んで、舌をそおっと撫でる。
その瞬間に、鳥肌が立ちました。
土の滋養という力が、大きな愛となって体に陽だまりを作っていく。
一口すくうたびに充足があり、一口すくうたびにため息が出て、一口すくうたびに笑顔になる。
なにより不思議なのはトマトなのです。
トマトのうま味は厳然としてあるものの、それが赤い味ではないのです。
抽象的な感覚ですが、赤い味ではなくオレンジ色の味わいがして、強すぎない。
だから余計に優しく、エレガントさがあるのです。
これはトマトの種類なのか、煮込み方なのかはわからない。
こんな不思議なミネストローネは、初めてです。
食べ終えて、シェフに「おひしい」とため息にも似た言葉で感激を伝えました。
すると、
「野菜を刻んで、鍋に入れてスイッチ入れただけです」と、さりげなく古井シェフは言われました。
でも我々は知っています。
その刻む、スイッチを入れる切る中に、誰もできない技とセンスが蓄積されていることを。
ああ、ごちそうさまでした。
大至急あっちゃんにも飲ませたい