麻婆豆腐は辛く、痺れるだけなのか?

食べ歩き ,

麻婆豆腐と聞くと皆、辛い、痺れる味を思い浮かべる。
しかし「瓢香」井桁シェフの作る麻婆豆腐を一口食べて思うのは、“優しさ”である。
麻も辣も効いている。
だが、なによりも、豆腐の淡い甘みが生きている。
豆腐への思いやりが込められた麻婆豆腐なのである。
だからこそ、食べ進むと気分が穏やかになってくる。
これは高揚感を求める、他の麻婆豆腐とは正反対ではないか。
肉味噌の量も極端に少なく、豆腐の香り高い味噌和えといった趣があって、箸で一切れずつつまんで口に運ぶ、熱々の豆腐が愛おしくなる。
胡辣(フーラー)という、四川の人が最も好むという唐辛子の焦げた香りが、ふわりと顔を包んで、幸せにする。
「本来はこういう料理だったと思います」。
そう井桁シェフはいう。
おもえば、毎日ように食べる料理が、そんなに辛く痺れるものだったり、肉味噌がたっぷり入ったしつこいものだったハズはない。
麻婆豆腐は日本に着いて、日本人特有のおおらかな寛容さと独自の解釈で、次第に辛く、痺れるようになっていったのだろう。
普段は、もっと辛いほうがいい。
もっと花椒をかけてと言い、自分でもそうして作る。
だが、この麻婆豆腐を食べて考えが変わった。
もっと豆腐を慈しめ。
香りに気を使い、楽しめ。
そう心に命じた。