鮑にナイフを入れ、口に運ぶ。
ああこれはどうしたことだろう。
生の固さでもない。蒸し鮑のしなやかさでもない。
食感は、柔らかいのだが、まだ生き続けているような、静かな噛み応えがある。
湯煎をしながらゆっくりと8時間蒸し、抽出され、噛めば噛むほどに。鮑に閉じ込められた純なうま味が、ゆっくりと膨らんでいく。
うま味の余韻は長く、長く、次第に海の底へと引きずり込む。
そこへFritz Salomon Gruner veltliner を、そっと流し込んだ。
アワビのヨード香とワインのミネラルが響き合い、肝のソースに凝縮したワインの味わいが溶けていく。
余韻にふっとトリュフが香って、心を焦らす。
ああ、このまま落ちていきたい。
「Compote d’ormeau et rizotte aux truffes 〜黒アワビのコンポートと秋トリュフのリゾット〜」
やはり高良シェフの作る料理は、生命の目覚めを切り取った味は、たまらなくいやらしい。
ラフィナージュ