札幌「セミーナ」

魚の身分。

食べ歩き ,

「うまっ」。
食べた瞬間、思わず呻いた。
銀カレイは、しなやかな肉体を舌の上で崩す。
しっとりとほの甘い体液が流れ出す。
フリットの香ばしい衣に守られ,高められたゆるい肉体が、輝きだす。
その刹那,艶かしい香りが広がり,焦ったいような気分となった。
これが銀カレイの本領なのか。
下に敷かれたのは、美唄の内山農園のズッキーニピュレである。
ソースのように見えるが、ソースではない。
付け合わせである。
舌に乗せれば、グリンピースのような甘みと香りが広がった。
春の陽だまりのように、ほんわりと温かく、銀ガレイに寄り添う。
「グリーンピースのような香りですね」。
食後にシェフに言うと、
「そうなんです。でもある種のズッキーニでないとこの味は出ないんです」と,言う。
「それにしても銀ガレイの実力に驚きました」そう、伝えると、
「カラスがレイとも呼ばれて,身が緩いから,煮付けにしかできないと,下に見られて馬鹿にされていますよね。でもこういう魚や普通の野菜に光を当てたいんです」。
そう言って、田中シェフは、素直な笑顔を浮かべるのだった。
「羅臼の銀ガレイのフリット。ズッキーニのピュレ 苫小牧からし菜
粒マスタード」
札幌「セミーナ」にて