「貴妃」と名付けられた料理は、魔界の味がした。
この世のものとは思えない不思議が渦巻き、経験則では解くことのできないうまみが沈んでいる。
手前には、はオマールの身が横たえられ、奥には天然乳酸発酵させた新玉ねぎに抱かれて、フレッシュウコンを少し香らせた餅米と、糯米サフランと泡辣醤で味をつけたオマールの爪の身が隠されている。
楊貴妃がもし食べていたらと夢想して作ったのだという。
不思議はソースにあった。
オマールの出汁に支えられた魚香味(豆板醤とにんにく、ねぎ、しょうがの薬味に、軽い甘酢を合わせて作られる、四川省の調味法)なのだが、今まで食べてきたどの魚香とも違う。
聞けば、甘みは黄人参、酸味はジョージアのオレンジワインを使っているのだという。
だからうまみは複雑で深いが、品がいい。
我々を誘惑し、滋味という沼に引きずり込む。
高貴な女王が放つ、品格を感じるのであった。
飄香 広尾本店にて。