黒漆器の中で、ご飯が湯気を燻らせている。
「食べていいよ」と、微笑みながら、囁く。
箸でそっとすくって、口に運ぶと、米は舌の上で、すくっと背を伸ばした。
手をつないでいるように見えて、一粒一粒が自立して迫ってくる。
柔らかく炊かれているのに、凛々しさがある。
果てしない抱擁力で、味覚を包み込む。
次はご飯に、アカモクをかけたものだった。
微量のごま油の香りをまとったアカモクは、磯香の中から切ない甘みを滲ませて、ご飯を恋しくしせる。
さらに、マナガツオの天丼が運ばれた。
天つゆの甘辛さがマナガツオのエロい色気と相まって、ご飯を猛烈に呼んでいる。
さらに次は、福井の漁師が作っているという塩ウニとごはんである。
ウニのすべてが凝縮した味をゆっくりと舐めまわし、その余韻でご飯を掻きこむ。
もう止まれません。
ご飯のシンプルな力を味わいたく、もう1膳は、ご飯と塩をいただいた。
ああ。一口で崩れ落ちる。
塩が米の甘みを奮い立たせ、豊満にさせる。
はい。もう止まれません。
6膳目は、おかかけご飯にした。
猫まんまであ。
削りたての鰹節を、ご飯にかける。
醤油も塩もいりません。
おかかの香りと旨みが、ご飯の甘みと出会って、この上なき幸せを運んでくるのだった。
ご飯六段活用。