「冷たいカレー」は、悲しい。
波打ち際に打ち上げられた廃材のように、役目を終えたわびしさがある。
「冷たいカレー」は、むなしい。
かなうことのない片思いのように、想いが置き去りにされる。
熱いカレー汁に冷たいうどんやそうめんをつけて食べる。
これはいい。
熱い汁をまとった冷たいうどんが、つるつるんと上ってきて、
冷たいんだか熱いんだがよくわからないながら、うまいと叫ばせる。
しかし。
熱いうどんに冷たい汁はいけないだろうなあ。
意味がわからないだろうなあ。
熱々ご飯に冷たいカレー。
これもいけないだろうなあ。
とてもわびしいだろうなあ。
中学の昼弁当にカレーを持たされた時がある。
冷たいごわごわのカレーと冷たいご飯。
あれはあれで、本来のカレーとは別次元に飛んだ、
マゾな味わいがあって楽しめたけど、
ご飯が熱いと現実に引き戻されて、いけません。
ところが。
あったのですね。
このおいしい組み合わせが。
白金「ロンジェヴィテ」
マクロビオティックや精進、薬膳を主体としてレストラン。
ふつうマクロビオティックのレストランは、
僕のような下手なものには、どうもよくわからないものだが、ここの料理を食べて驚いた。
どの皿も、食いしん坊のツボをついてくるような剣先があって、
同時に酒が飲みたくなっちゃうのがうれしい。
で。
最後に出されたのが
冷えたカレーと熱々ごはん。
(見てください。器ごと北極ですよ)
動物性油脂なく、スパイスと漢方が溶けたカレーは、舌に優しく鼻に刺激的で、
食べ出したら止まらない。
スプーン持つてが加速し、一気呵成。
充分に
危険性があります。
熱いソースとご飯がこんなに合うとは知らなんだ。
テイクアウトを入手し
家でも五穀米と合わせて
やってみた。
やはり止まらない。
酸味のバランスもいいんだな。
あっさりだが、後を引く。
頬をなでられているようで、ビンタも来る。
ああ、
止まらない。
閉店