「麺くい処 愛知」の渋み

食べ歩き ,

立ちそばシリーズ。
朝7時。亀戸駅に向かうサラリーマンの群れが、慌しく通り抜ける脇の路地に、「麺くい処 愛知」は、ひっそりと佇んでいた。
店では、ご主人が一人、カウンター席の端で、スポーツ紙を読んでいる。
「いらっしゃい」。
ずらしためがねから、上目づかいで挨拶をされた。
風格がある。六十代前半だと思われるご主人は、老舗割烹の主人だといってもいいような風格と色気がある。
しばし悩んで、「かき揚げ天そば」460円を頼む。悩んだのは、「穴子天そば」や「めかぶそば」に惹かれたからだ。
ご主人が始動し始めた。
麺を大釜で茹でる。釜を見つめる。茹で上げる。水で締める。
再びさっと温める。湯を切り、最後の一切りは、丼に湯を入れて温める。湯を捨てる。
麺入れ、つゆを張り、わかめ、かき揚をのせ、葱を散らし、丼の底と周囲を拭いて、「おまちどおさま」の声と共に、目の前に。
仕事が決まっている。
無駄の無い動きが、潔く、こちらの心の内を、すくっと清らかな気分にさせる。
うまい。
極細の麺はつるると口当たりよく、そばの味がする。「麺くい処」の看板に、偽りなし。
丸く分厚いかき揚げを、カリッとかじれば、衣と桜海老の香りが広がって嬉しくなる。
玉葱、葱、桜海老のかき揚げ天は、揚げたてではないが、油が酸化しておらず、コクが甘めのつゆに溶け出して、ぐっと食欲をあおるのだ。
うらやましい。
近隣に住む人と働く人たちのことが、つくづくうらやましくなった。

 

 

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