銀座の真ん中に、女将がたった一人で切り盛りしている料理屋がある。
ここで僕は、料理というものの深さを学んだ。
味の肩が丸い。
割烹のように、洗練の味で攻めてくるのでもない。おふくろの味としての、野暮があるわけでもない。
いつも野菜の炊き合わせを食べて、鳥肌が立つ。
椎茸もサヤインゲンも、筍も独活も、肩ひじを張らずに、これ以上でも以下でもない味に煮しめられて、自然に収まっている。
しみじみと、野菜の力が体の隅々へと染み込んでいく。
彼女が歩んできた道が生んだ料理。
人生の味は、優しく、温かく、たくましい。