豚肉料理の旨い店2004

食べ歩き ,

豚肉料理が盛んである。一昔前は、とんかつ屋や洋食屋をのぞけば、中国料理店か沖縄料理店にしかなかった豚肉料理が、フレンチやイタリアンにも、グランメゾンやリストランテにも堂々とある。一方沖縄料理や韓国料理の充実度も見逃せない。今回は、そんな豚肉料理最前線。

六本木・ブーケドフランス
 看板料理の一つに豚肉料理を据え、前菜も主菜も豚肉から選べるという、当時(94年)のフレンチでは画期的なメニュー構成を始めた店。その代表料理の一つ「白金豚(他の銘柄豚の日も)バラ肉の黒胡椒煮込み」は、脂をみっちりとつけた豚バラに黒胡椒をまぶし、タマネギの水分だけで蒸し煮にした料理で、胡椒の刺激が輪郭を作る中で、豚肉の甘みとタマネギの甘みがとろりと共鳴する傑作。また脂身の魅力と肉汁の豊かさを生かした「無菌豚ロースのポワレ セージ風味」。前菜では、フォアグラを合わせた「ブーダン・ノワール」(豚の血のソーセージ)、「豚挽き肉と豚足のパイ包み」など、食欲がそそられる料理が並ぶ。またしっとりと煮込まれたランチに登場する「豚舌の煮込み」もおすすめ。ランチ千八百円〜ディナー四千八百円。余談ながら、ソムリエールでもあるマダムのワインやチーズの説明は、当代随一。

南青山・ローブリュー
 豚肉好きがこぞって押しかける、今最も熱い豚肉料理中心のフランス料理店。店名はシェフが愛するバスク地方の紋章名。入口のノブ、店内の飾り物、ポスターなどすべて豚の関連物。まずは前菜に、「ブーダン・ノワール」二千二百円か「温製豚の頭のテリーヌ(テートドフロマージュ)」千四百円を。ブーダンは、豚耳と舌のコンフィ入りのバスク風で、その食感が豊かな鉄分の中でアクセントとなってクセとなる。テリーヌは一般的な型につめて固めたものでなく、分厚くゼラチン質に富む皮で舌、耳、頬肉や頭肉巻いて固めてある。様々な触感がほの甘みとともに口の中で響き合い、小躍りしたくなるうまさ。ソースは定番のケイパー、コルシニョン、トマト、裏漉し玉子、マスタード、オリーブ油を混ぜた酸味のあるグリビッシュ。主菜でまずおすすめが、チーズ風味のソース添えの「豚足パン粉焼き」千八百円と、サバイヨン風ソースが添えられた「豚耳のパン粉焼き」。カリッと焼かれた香ばしい衣に歯を入れれば、ねっとりとしたゼラチン質の食感が流れ出て、肉好きを虜にするは必至。さらには、じっくりと炭火で焼かれた「イベリコ豚ロースのグリエ」三千八百円は、口に入れると脂がすっと溶け、動物的な野趣に富む香りとともに甘い肉のジュースが流れ出る。その他滋味に富む「豚頬肉とソーセージのポトフ」や、巨大さに歓喜の声が上がる「豚すね肉のコンフィ」など、選ぶのに悩む料理の目白押しだ。使う豚も、沖縄アグー豚、寿豚、イベリコ、黒豚など様々


下北沢・うない
 数ある東京の沖縄料理店の中でも、素直に素材の味を活かす巧みさでは、おそらく随一。おなじみ皮つき三昧肉の「らふてい」千二百円は、二日間かけて脂を抜き、味噌とピーナッツで調味したもの。ほどよい味の濃度で、もっちりとした皮に歯を食い込ませると、脂が舌に乗ってすうっと溶けていく。甘みを引き締める黒胡椒が心にくい。皮つき三枚肉に沖縄の海塩すりこみ、三週間熟成し、茹でた「すーちき」千円は、余分な水分が抜けた脂身がしまっていながら、口に入ると甘く溶ける。シークワーサーをかけ、茹で汁と醤油を合わせつけ汁につけて食べれば、格好の泡盛の相手となる。真っ黒なソースがかけられて登場する「ミスダル」千円は、ロース肉の薄切りに泡盛、醤油、ざらめで下味をつけ、煎って擦った黒胡麻をつけて蒸しあげた料理。胡麻に溶け込んだ甘みと豚肉の脂の甘みが調和して、優しい気分になる。その他らふてーを細かくして炒め、白菜、フーチバー、タマネギ、ピーマンの上に散らした「カリカリ豚の温ソースサラダ」千五百円など、おばあが作った惣菜の、暖かみと力強さを継承した、健やかな料理がいただける。


六本木・眞平
 田崎真也氏が経営する新感覚の焼きとん屋。カウンターのみで、目の前の鉄板にて客が焼くスタイル。千代豚やイベリコ豚ロースも魅力だが、豊富な内蔵肉をまずは楽しみたい。乳の香りするおっぱい、コリコリとした気管、ねっとりとした食感のチレ、甘みのあるハツ、脂がのったトントロのほか、タン、喉、軟骨、あご下、ハラミ、ガツ、シロ、動脈、食道の十四種類。名前と部位がわからぬムキは、店内張り出された豚の絵を参照すべし。一皿の量がが多いので、「盛り合わせ」千八百円にしてもらうといいだろう。その他らふてーやスーチカ、豚しゃぶしゃぶなど豚を素直に生かした料理がある。焼酎は伊豆七島と泡盛を中心に、百五十種。


赤坂・フリッツ 閉店
 赤坂グリル旬香亭が始めたとんかつ屋。店名通り各種フライとカレー、ハンバーグといった洋食を揃える。そのどれもが日本トップレベル。とくに力を入れるとんかつは、低温でゆっくり時間をかけて、肉をいたわるように揚げ、しっとりと肉汁豊かに仕上げる。低温でいながら、衣に油を吸わせず、カリリと仕上げた、いままでにないとんかつを完成させた。パン粉の吟味と揚げ技のなせる傑作。切り口の中心はうっすらとロゼ色で、肉のブイヨンがにじみ出る。たまらず食べれば、やさしい甘みが広がり、肉というより菓子のような甘美な味わい。さらには用意した沖縄寿豚と黒豚に合わせ、揚げ方を微妙に変えて持ち味を生かしている。「黒豚ヒレカツ」二千六百円、「黒豚ロースカツ」    円、「寿豚ヒレカツ」二千六百円、「寿豚ロースカツ」   円。


西麻布・テラウチ 閉店
 シェフを務めていた青山「グロッタ」時代より、肉焼き名人としてファンの多かった寺内シェフの店。以前より牛とともに人気の高いのが、「豚のTボーンステーキ」    円。厚さ約五センチ、四百グラム近い肉に、香草と塩をまぶし炭火で焼きあげる。強火にて勇気と力業でガツンと焼いた後、じっくり火を通していく肉は、断面の中心がほんのりピンク色。ヒレの部位は柔らかな甘みが流れ出、ギシギシと肉の繊維を断ち切るように歯が食い込んでいくロースの部分は、脂の甘みと肉汁が口の中で暴れ回って、おいしさに思わず笑ってしまうほど。肉を食らう、いや食べ物を食べる喜びが体の奥底から沸き上がる豚肉料理である。