飯田「柚木元」

茄子のありがたみ。

一皿目は、生のナスだった。
切って、山塩をかけただけである。
1時間ほど前にもいだばかりのナスだという。
噛もうとすると、ふわりと歯が包まれる。
皮はないが、皮の香りが広がり、続いてほんのかすかにナスのアクが感じられた。
「私を食べちゃダメよ」と、まだ生きているナスが言っている。
噛む。目を閉じて、普段よりよく噛む。
するとどうだろう。
含まれていた水分がとめどもなく溢れ、口の中を満たしていくではないか。
これがナスなのか。
ナスが生きている証なのか。
30回は噛んだろうか、ようやくナスのジュースが引き始めた時、ふっと甘みが顔をもたげた。
「私を忘れないで」。
そう言われているかのような甘い余韻を残して。
南信州の在来種「ていざ茄子」である。
昔、田井澤久吉という人が作り始めたという巨大なナスは、「たいざわナス」世呼ばれていたが、いつしかなまって「ていざナス」になったという。
茄子王国信州は、こうして様々な在来種を代々作られている方がいるという。
ていざより少し小さい「しげ子ナス」も在来種で、こちらは郷土料理にちなんで、甘味噌で玉ねぎと炒められて出された。
こちらは肉が緻密で、甘く、甘いミソ味と手を繋いで、食欲のツボを突いてくる。
前菜だったが、もう少しもらい、白いご飯に乗せたかった。
飯田「柚木元」にて