舌に春が溶けていく。

食べ歩き ,

舌に春が溶けていく。

アミューズは
「真狩の春掘り人参のフォンダン」
フォンダンというよりポタージュ。
一さじすくって目を閉じた。
甘い。
人参の甘味がフォンに支えれれて、口いっぱいに広がっていく。

胃袋が開き、笑いが抑えられない。

「桜海老と帆立のクスクス、トマトソース風味のサラダ」

辛味を利かせた冷たいトマトソース(そうかハリッサだ)に、 桜海老、デイル、オリーブオイルの香りが弾み、 帆立の甘味がにじり寄る。

辛味が食欲を掻き立て、絡み合った香りが気を起こす。
軽さの中の洒脱。
軽妙に宿した北アフリカ。

「グリンピースのポタージュ」
舌に春が溶けていく。
豆の、春の香りに包まれた口の中を、優しい甘味が通り過ぎていく。
ああ。
ギリギリのフォンも見事。
グリンピースの力を信じた勇気の味。

「桜マスのムニエル」
ううむ。
皮をパリッと香ばしく、身をミキュイに仕上げたマス。
そのしなやかな肢体が、口の中で花びらとなって、はらりはらりと舞い落ちる。
おそらく皮側だけを中弱火で火を当てたのではないか。
たくましさの中に繊細な品を併せ持つ、春の芽吹きと共通した桜マスの個性を生かした
火の通し。

ソースはあさりのジュに白ワインヴィネガーの酸味を利かせ、フキノトウを刻み込んであるのだろう。
春の苦味と出会った、マスがうれしそうだ。
筍、菜の花、人参。
ガルニもいい。

「イチゴのスープ アールグレイのグラス ココナッツムース」。
ここにも春。

「ごちそうさまでした。春を楽しみました」。
そういうと、 札幌「ラ・サンテ」のシェフは、 「ありがとうございました」。と、にっこり笑った。
人の心を和ます、温和な笑顔。
人柄がにじみ出た、優しい笑顔

料理も、気心が優しい彼の人格が現れている。
彼の才なら、もう後一歩、凛々しい味わいが期待できそうだ。
今はまだ、彼の季節も春なのだから。