一口飲むと、静寂に包まれた。
二口飲むと、滋養が湧き上がる。
三口飲むと、体の隅々へと染み渡る。
どこまでも清らかで、丸い。
昆布や鰹節、薄口や塩が入っているのに、深山に湧き出でる水の如く、甘露で静やかである。
汚れなく、どこまでも清澄な汁は、心を洗い、安寧へと導いていく。
自然に敬意を払い、共生してきた日本人が生んだお椀である。
自然と誠実に寄り添った、神田さんの勇気がここにある。
最後の一滴を、惜しむように、いとおしむように飲むと、微かに昆布が香った。
それもまた精妙な計算である。
渾身の早春のお椀。